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2021年07月27日

焼酎黒麹の白色化によって起こる遺伝子変異

【要点】
○実用黒麹、実用白麹、研究用白麹のゲノム比較を実施した。
○研究用白麹と実用白麹には遺伝情報に明確な違いがあることを明らかにした。
○実用白麹株では、白色化後の継代によって共通する変異が起きたと推測される。

【概要】
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授らは、株式会社ぐるなびとの共同研究において、焼酎麹として用いられている黒麹と、黒麹が突然変異で白色化した白麹のゲノム解析を行い、白麹の遺伝的特徴を明らかにした。

従来の白麹研究では、研究用の白麹IFO4308株に遺伝子の欠損などが見つかっているが、そうした特徴が白麹株一般に当てはまるかどうかは不明だった。本研究では、種麹屋(用語1)の協力のもと、白麹IFO4308株と、複数の実用焼酎用白麹のゲノム比較を行ったところ、両方の白麹に共通する遺伝子変異が複数特定された。一方、黒麹とIFO4308株との比較では違いがないが、種麹屋が保有する白麹には共通した変異が起きている遺伝子が多数見つかった。別々に継代されてきた種麹屋の白麹に同じ変異が見られたことは、白色化が起きると、特定の遺伝子に変異が入りやすくなるためだと考えられる。そうした変異がある遺伝子群には糖新生(用語2)の重要な酵素であるイソクエン酸リアーゼ(用語3)に関連する遺伝子が含まれており、種麹屋が保有する白麹株は、酢酸を炭素源として用いて生育することができなくなっていた。

イソクエン酸リアーゼを含めた特定の遺伝子に変異が入りやすい理由は不明だが、従来用いられてきた白麹株以外に研究対象を広げたことで、これまで明らかになっていなかった焼酎白麹の特性を示すことができた。

この研究成果は7月2日、米国の科学誌「Fungal Genetics and Biology」にオンライン掲載された。

●研究の背景と経緯

東京工業大学と株式会社ぐるなびは2016年より、日本の食文化を支える発酵をテーマとした共同研究を行なっている。この研究は、発酵過程や発酵に関わる微生物を科学的に解析することで、日本の食が持つ新たな価値を発見し、さらなるブランド価値向上につなげることを目的としている。
焼酎の醸造には、清酒や味噌、醤油などに用いられている麹菌(Aspergillus oryzae)ではなく、クエン酸生産能が高い黒麹(Aspergillus luchuensis)が用いられている。また、黒麹が突然変異を起こして白色化した白麹も、製造上のメリットが大きいことから、黒麹とともに焼酎醸造等に広く用いられている。これまでの白麹に関する研究では、菌株保存機関に寄託されているIFO4308株(研究用白麹)が用いられ、発酵特性や色素合成に関与する遺伝子の欠損部位が発見されてきた。一方、研究用白麹とは別に、各種麹屋が保有する焼酎用の白麹株もあるが、これまでの研究で明らかになった特徴が白麹株一般に当てはまるものなのか、IFO4308株の特徴なのかはわかっていなかった。そこで研究チームは、種麹屋の協力のもと、実用されている黒麹と白麹の全ゲノム解析を行い、白麹株に見られる遺伝的特徴と発酵特性を明らかにすることを試みた。

●研究成果

本研究では、現在実用されている焼酎用黒麹4株(TK-86〜89)、焼酎用白麹4株(TK-90〜93)について全ゲノム解析を行った。その解析結果と研究用白麹IFO4308株の公開ゲノムデータを合わせて、系統樹(用語4) を作成した(図1)。

<b>図1. 黒麹と白麹の系統樹。IFO4308株は、種麹屋が保有している白麹株と遺伝的に異なることが示された。</b>
図1. 黒麹と白麹の系統樹。IFO4308株は、種麹屋が保有している白麹株と遺伝的に異なることが示された。

その結果、実用黒麹4株の間では遺伝的なバリエーションが大きいものの、実用白麹株4株は互いに遺伝的に近いことがわかった。一方で、実用白麹株と同じ白麹である研究用白麹IFO4308株は、実用白麹株とも黒麹株とも遺伝的に異なることが示された。
次に実用黒麹4株、実用白麹4株、研究用白麹IFO4308株の3グループ間で変異が起きている遺伝子を比較した。その結果、実用黒麹を基準にして、実用白麹4株とIFO4308株で同じ変異が入っている遺伝子を7遺伝子(変異グループA)、IFO4308株には変異がなく、実用白麹4株に同じ変異が入っている遺伝子を187遺伝子(変異グループB)、実用白麹4株とIFO4308の両方に変異が入っているものの、実用白麹4株とIFO4308では変異が異なり、実用白麹4株に同じ変異が入っている遺伝子を9遺伝子(変異グループC)特定した(図2)。過去の研究で特定された色素合成に関わる遺伝子は変異グループCに含まれる。
この結果において、異なる方法で取得された実用白麹と研究用白麹に共通の変異が入っていることは驚きであり、変異が入っていた遺伝子は白麹に共通する遺伝的特徴である可能性が高い。一方で、IFO4308株には入っておらず、実用白麹株にのみ共通して見られる変異も多数検出された。このことは、IFO4308株が公的な寄託機関で保管されているのに対し、実用白麹株では植え継ぎを繰り返して保存されていることから、白色化後に追加的に入った変異であると考えることができる。異なる種麹屋で行われる植え継ぎによって共通の変異が入ることもまた驚きであるが、変異が入った遺伝子は白色化によって起こる生理特性の変化に起因しているものと推測された

<b>図2. 遺伝子の変異数。実用白麹株で共通する変異が多数見つかった。</b>
図2. 遺伝子の変異数。実用白麹株で共通する変異が多数見つかった。

さらに、実用白麹株で共通して検出された変異遺伝子の中で、糖新生に重要な役割を果たすイソクエン酸リアーゼに着目し、炭素源の資化能(用語5)を評価するための生育試験を行った(図3)。その結果、黒麹株やIFO4308株では、酢酸を単一炭素源とした培地でも生育が見られた。一方で、実用白麹株では生育が見られず、変異によってイソクエン酸リアーゼの機能が失われていることが示唆された。

<b>図3. グルコースまたは酢酸を単一炭素源とする培地での生育試験の結果</b>
図3. グルコースまたは酢酸を単一炭素源とする培地での生育試験の結果

どの実用白麹株にも、炭素源の資化能に関わる遺伝子に変異が共通して入っていることは、白色化が代謝に何らかの影響を与えていることが考えられた。ただし今回の結果からは、その原因を特定することはできなかった。

●今後の展開

今後は、本研究で得られたゲノムデータを用い、今回対象とした翻訳領域以外にも解析を広げることで、白色化した焼酎用麹菌が持つ生理特性をさらに詳しく解明できると考えられる。
また今回は特定にいたらなかった、白色化が白麹の代謝に与える影響を明らかにできれば、白麹の遺伝的特徴についての理解がさらに深まると期待される。

【用語説明】
(1)種麹屋:
米麹や豆麹などの麹を作る際、元となる胞子(種麹)を供給するメーカーのこと。日本で10社に満たないメーカーが、それぞれの麹菌株の維持管理を行っている。
(2)糖新生:
糖質以外の物質からグルコースを合成すること。グルコースは生体内で必要な物質を作り出す材料として重要であり、グルコースが得られない場合は、糖質以外の物質からのエネルギーを使いながらグルコースを合成する。
(3)イソクエン酸リアーゼ:
イソクエン酸からグリオキシル酸とコハク酸を生成する酵素。酢酸を炭素源として利用する際に働くことが知られている。
(4)系統樹:
遺伝情報の類似度を表す図。遺伝的に近い株は近い場所に配置されるように作成される。
(5)資化能:
ある物質を取り込み、利用する代謝経路を有すること。

【論文情報】
掲載誌:Fungal Genetics and Biology
論文タイトル:Analysis of genomic characteristics and their influence on metabolism in Aspergillus luchuensis albino mutants using genome sequencing
著者:山本希1、渡来直樹1、小谷野仁1、澤田和典2、豊田敦3、黒川顕4、山田拓司1
所属:
1 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
2 株式会社ぐるなび イノベーション事業部
3 国立遺伝学研究所 比較ゲノム解析研究室
4 国立遺伝学研究所 ゲノム進化研究室
DOI:10.1016/j.fgb.2021.103601

以上

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