日本経済新聞 連載『こころの玉手箱』

2017年6月8日

ペア碁 ―― 女性参加へ究極の一手

 男女のペアが、交互に相談なしに打って楽しむ「ペア碁」は、囲碁の普及拡大を願って私が考え出したものだ。もともと囲碁が大好きで、究極の頭脳ゲームだと思っているが、面白さが分かるのに時間がかかるという難点もあった。どうすれば多くの人に楽しんでもらえるか――。女性の参加を促すペア碁は、普及のための"究極の一手"になるという確信があった。

 当初、日本棋院理事長も務めた岩本薫九段や、アマ強豪の村上文祥さんの積極的な賛同を得られたのは心強かった。4カ国・地域が参加した第1回世界大会を開いたのが1990年。その後、順調に増え続け、今や世界ペア碁協会の加盟国・地域は75に達した。プロのペアを集めた世界大会まで開かれている。

 囲碁の大会は地味になりがちだが、ペア碁の大会ではドレスアップした男女が集い、社交ダンスのように雰囲気が華やぐ。欧米のパーティー等ではパートナー同伴が普通で、これもペア碁が受け入れられている要因かもしれない。

 味方同士で相談できないことで、ゲームとして独特の面白さも生まれている。敵の意図はもちろん、自分のパートナーの頭の中も推測しながら打つから、複雑きわまりないのだ。

 そんな複雑性に着目したのだろう。先日、中国で行われたトップ棋士と最強といわれる囲碁AI(人工知能)の三番勝負に、イベントとして「AIと棋士」のペア2組による対局があった。自分でも企画しようと思っていたので先を越された感もあるが、時代を先取りした面白い試みだった。

 AIの習熟力はすごい。世界のトップ棋士たちが次々とAIに負かされ、もはや人類の遠く先に行ってしまったとの見方もあるが、私自身は、井山裕太王座ら若手が、AIの打ち方から徹底的に学ぶことによって差を縮められると思っている。さらに、人間にしかできない発想によって勝てることもあるかもしれない。

 今後、棋士がAIから学ぶうえで、「AIとのペア碁」は一つの方法ではないかと思う。そして、人とAIの今後のつきあい方を考えるうえでも大いに参考になるのではないだろうか。