日本経済新聞 連載『こころの玉手箱』

2017年6月7日

パブリックアート ―― 暮らしに根付く芸術を大事に

 「感無量です」。宮城県出身の漫画家・大友克洋さんの言葉は正直な気持ちだったと思う。東日本大震災から4年の2015年3月、震災に向き合って描き上げた大友さんの作品を原画として作られた壁画が仙台空港に設置され、その除幕式でのことだ。

 私が理事長を務める日本交通文化協会では、駅や空港などの公共スペースに大型の陶板レリーフやステンドグラスを設置する事業を続けている。平山郁夫さん、片岡球子さん、野見山暁治さんといった一流の芸術家に原画及び監修をお願いし、45年間で522点の作品を全国に設置してきた。

 それらのほとんどを製作したのが、1981年に開設したクレアーレ熱海ゆがわら工房。陶板レリーフに関しては、長年の研究の成果として、釉薬(ゆうやく)の調合や温度管理等で5000色以上を表現できる独自技術を確立し、国内外から高い評価を得ている。仙台空港の作品もその技術によって実現したもので、作家のあのひと言は、我々への最大の賛辞として心に響いた。

 私がパブリックアートに取り組み始めたのは、建築家の清家清先生の影響が大きい。80年、日本橋(東京)を歩いていた時、高速道路が橋の上にかかった様子を見て、「文明が文化を駆逐している。残念だな」と話された。その言葉に文化の重要性を強く意識するようになった。

 ノーベル化学賞を受賞された野依良治先生の言葉も忘れられない。2006年に私が企画したシンポジウムに登壇いただいた時に「21世紀は文化を尊ぶ文明でありたい」と力強く話された。そのひと言に取り組む事業の意義を再確認した。

 協会では「1%フォー・アーツ」の制度化を提言してきた。公共建築の建設費の1%をその建築物に付随する芸術・アートのために支出しようというもので、欧米やアジア各国では法制化されている。地道な活動を続けるなかで、芸術が生活に根付くことの重要性とともに、パブリックアートの価値を理解してくれる人も増えてきた。国でも同様の意義を改正後の文化芸術基本法に明文化すべく審議が始まったと聞き、期待しているところだ。