日本経済新聞 連載『あすへの話題』

2011年6月9日

日本発、世界へ

 日本の食文化は世界一だ。それを可能にしているのは質の高い食材であり、歴史とともに培われてきた調理の技だと思う。
 海外での評判もいい。欧米でのヘルシーな食生活への志向なども追い風となり、今では海外の日本食レストランは3万店以上といわれる。ただし、日本人の経営となるとその中の1割程度で、残りはアジアを中心とする外国の人たちのお店だ。
 これは日本食が世界のスタンダードになったことを証明するものだと喜ぶべきことである。そう思うと同時に、多くの美味(おい)しいお店があることは認めたうえで、「本格的な日本料理はもっと繊細でじつに味わい深いものですよ」と声を大きくして言いたい思いにも駆られる。日本には醤油(しょうゆ)や味噌、酢、みりんなど伝統的な調味料、発酵食品があるし、昆布や鰹節(かつおぶし)、煮干しなどの「だし」の文化がある。それらは日本人の舌がもつ繊細な味覚によって使いこなされている。
 ブームとなった海外の日本食レストランで、日本の食に触れて魅力を感じた人たちは、次はもっと本物を求めることだろう。その欲求に応えるためには正統の味や技が必要となるはずだ。日本の食文化の知識を修め、調理技術を身につけた人材を育成する教育システムの確立が急がれる。ベテランの料理長たちが先生となり、後進を指導する大学院大学等も一考に価(あたい)するのではないだろうか。
 食材や調味料、そして調理技術など日本の食文化が各国の料理と出合って、たとえば新しいフランス料理、イタリア料理などを創造することにつながるかもしれない。そのとき、本家の日本料理は一段とブランドアップしていくことだろう。