日本経済新聞 連載『あすへの話題』
2011年05月26日

ハッピーレストラン

 群馬県吾妻郡で移動レストランを開いた。福島県南相馬市から避難する被災者の方々に、外食の気分でひとときでも日々の苦労を忘れていただきたいと実施した3日間の炊き出しで、「ハッピーレストラン」と名付けた。賛同してくれたシェフたちがボランティアで料理長を務め、本格的な創作和食やフランス料理を出した。  「まるで竜宮城にいるような気分です」  会場でそんな声が聞かれたという。外食は、暮らしの中のささやかではあるが頻度の高い非日常的な楽しみだ。日常からほど遠い苦難の日々を強いられている方々を少しでも癒せたならうれしい。そして、ささやかな楽しみの感想が「竜宮城」を持ち出すほどのことになった現実が重い。  閉店の翌日から2日間、同じ会場に「はれのひ食堂」がオープンした。南相馬の女性たちが、避難生活でお世話になっている地域の人たちに少しでもお返しがしたいという気持ちで自分たちの郷土料理に腕をふるった。ほっきめし、さんまのぽっぽ焼き、どぶ汁......海辺の町に伝わる料理は山間の町に暮らす人たちに喜ばれ、南相馬の女性たちが地元の人にレシピを教える姿もみられたという。  作る人も食べる人も励まし合った5日間。「自分たちが元気をもらった」と振り返るスタッフのリポートを聞き、食のもつ力についても改めて思った。おいしさは人を元気にする、おいしさは人と人をつなぐ。  次の「ハッピーレストラン」も準備中。キッチンカーを移動し、老舗料理店の皆さんが駆けつけてくれる予定だ。避難生活が終わり、それぞれのふるさとで外食を楽しむあたりまえの毎日に一日も早く戻れることを願いつつ、不定期ながら続けたい。