日本経済新聞 連載『あすへの話題』

2011年5月19日

人のためは自分のため

 カンボジアで地雷除去のボランティアに取り組んだ知人がいる。彼が経営する会社には地雷除去に応用できる技術があり、地雷の探査機を無償で開発した。
 地雷を取り除いた校庭には、陽が昇ってから沈むまで子どもたちの笑顔が絶えなかった。その光景を前に自身が幸せな気持ちで満たされているのに気づいたとき、彼は実感したという。子どもたちのためではなかった、自分のための仕事だったのだと。
 活動に参加する若者も多くいたが、ほとんどの意識は「社会貢献のための慈善活動」だった。彼はあるときから若者たちに「カンボジアの人々のためではなく自分のための活動だ。自分の心のなかに在る、他者の役に立ちたいという本能的な欲求を満足させるためにやるのだ」と話すようになったそうだ。
 現場にアクシデントはつきもので、そんなときに慈善活動だという意識でいる人の多くは、それが小さい事故でも、やめて帰ってしまった。しかし、他者のためにやってあげるのではなく、自分のためにやるのだと意識できた人は動じない。そもそも作業もていねいで事故も起こりにくいという。自分のためとなれば誰もがよりよい成果を求めるし、喜ばれる結果を出すことで自分自身が満足できるのだから仕事の質も高くなる。
 ゴールデンウイーク、多くのボランティアが駆けつけた東日本大震災の被災地は、今も支援を必要としている。休暇等を利用する個人の活動に加え、組織的に行う息の長い支援も望まれる。自分のためにやるのだと意識して行う活動が、企業ならば本業で取り組む支援がますます大切になると思う。本業であれば継続できるし、どんな困難に直面しても乗り越えていける。