日本経済新聞 連載『あすへの話題』

2011年4月21日

芸術文化と科学技術

 中国最高峰の理工系総合大学・清華大学が百周年を迎える。同校とはいくつかの縁があるが、その始まりは、中国トップの美大・中央工芸美術学院と合併して清華大学美術学院が誕生した12年前。私が理事長を務める公益財団法人日本交通文化協会では日本及び海外の美大生に奨学金を給付する「国際瀧冨士美術賞」を31年前から行っており、その事業による中央工芸美術学院との親しい交流から式典に参列した。

 両校の合流時には、「アート&サイエンス」というテーマが掲げられた。科学技術に偏重することなく芸術文化も重ね合わせた大学教育によって、人格的にもよりすぐれたリーダーを育成していく。そのような強い信念があったのだと私は理解した。

 後年、そのプロジェクトの中心的な一人、清華大学の副学長も務めた何建坤先生を静岡県にある日本交通文化協会の工房に迎えた。大型のパブリックアート作品を中心に制作している工房は、とくに陶板レリーフに独自の技術の蓄積がある。陶板に使う釉薬(ゆうやく)はガラスだ。ガラスにセレンを混ぜて窯で焼くと赤い陶板になり、コバルトが入ると緑になる。各種釉薬の調合や温度管理等によって5000種類もの色を再現できるのだ。設立から30年が過ぎた工房の見学を終えた先生からは「我々よりも20年以上も早く、本格的な芸術と科学技術の融合を実現していますね」という印象深い言葉をいただいた。

 工房が保有する技術や設備を広く芸術界の役に立てようという取り組みもある。美大等への開放はその一つで、昨秋は東京芸術大学大学院が同工房で実習ゼミを実施した。今後も芸術文化と科学技術が融合するアトリエとして広く提供していきたい。