日本経済新聞 連載『あすへの話題』

2011年4月14日

東京でふるさとを食べる

 「地産他消(ちさんたしょう)」の取り組みを始めて約2年になる。「地産他消」は造語だ。農産物などを生産したその地元で消費する「地産地消」に対し、他の地域で消費するという意味で考えた。東京でふるさとを食べよう、といえばわかりやすいかもしれない。東京をはじめとする都市部などで消費することにより、各産地における食材等の需要が増え、それが産地に安定した生産拡大をもたらす。日本の喫緊の課題といえる農漁業の産業化の一助になりたい、そんな思いをこめた仕事である。
 日本には世界が認めるすぐれた食文化がある。それは各地で作られる質の高い食材なしには成り立たない。食材を守ることは日本の食文化を守り育てることにもつながるのだから「地産他消」の意義は大きい。
 取り組みの一つとして現在、全国1750の市町村の食材情報を1万人以上のシェフにつなぐコミュニティ作りを進めている。各市町村がおすすめする食材情報を提供するのだが、シェフの皆さんはほぼ全員が、そのデータの中から最初に自分の故郷の食材をチェックする。さらに、その食材の話をきっかけに、スタッフとシェフの間で、ふるさとはどんなところ......、名物の郷土料理は......、故郷の食材でメニューを開発したい......そんな話に花が咲くという。
 被災地の農漁業が受けたダメージは大きい。シェフたちが故郷を離れても常にふるさとを思う気持ちは、一日も早い復興を実現する強い力になるだろう。もちろん都市部の消費者の果たす役割が大きいことも忘れてはならない。そして、食の分野を本業とするものの使命として、私たちも微力でもがんばり続けなくてはならない。