日本経済新聞 連載『あすへの話題』

2011年3月31日

地下空間に放送局を

 このたびの大震災で被災された方々へ心よりお見舞い申し上げます。
 そのとき私はビルの33階で会議に出席していた。そして直後に、誰もがそうであったように、携帯電話がつながらない状況を経験し、改めて非常時の情報伝達のことを思った。どこにいるかということが、得られる情報量やその後の行動に影響を与える。そこが地下鉄の車内だったらと考えた。
 2003年2月に韓国の大邱広域市で起こった地下鉄駅構内の火災をご記憶の方もいるだろう。通信網はあったが適切な指示が速やかに伝達されず、火災現場に後から入線した列車の乗客が逃げ遅れて多数の被害者が出た。情報伝達手段が機能していれば被害は違っていたはずだ。
 地下空間には制約があり情報網は限られる。日本の地下鉄道は730キロメートル以上、年間の利用者総数は約52億人で、地下街を含めて地下空間はいまや都市の一部だ。予期せぬ緊急時、どちらに避難すべきか、とどまるべきか。地下空間を利用している人に地上にいる場合と同様の情報内容、情報量をリアルタイムに伝達することはとても重要なことだ。
 この夏の本格的な地デジ化によって、通信と放送が融合して進化したマルチメディアが可能になる。これを活用した地下空間放送局を私は構想する。アクセスダウンがない放送を活用することで、地下空間のセーフティーシステムになれると思う。
 建築家の清家清先生が、「地下街や地下鉄にも、万一の災害時に備えた信頼できる情報手段が必要ですね」と話されるのを聞いたことが、地下空間放送局構想へつながった。あれからもう30年以上が過ぎた。実現を期待したい。