日本経済新聞 連載『あすへの話題』

2011年3月3日

1%フォー・アーツ

 パブリックアートをテーマとする座談会に出席した。席上、出席者のお一人、世田谷美術館館長で美術評論家の酒井忠康さんから、イギリスで、美術評論家ハーバート・リードの墓参りをしてきたという話を伺った。リードは私にとっても特別な存在だ。私は理事長を務めている公益財団法人日本交通文化協会で約40年前からパブリックアートに取り組んでいるが、事業の指標としているのがリードの著書『芸術の意味』に書かれた次の言葉である。
 『今、我々に欠けているのは芸術家ではない。大衆である。芸術に意識を持つ大衆ではない。無意識的に芸術的な大衆である』
 人々が普段の生活の中で芸術に親しむことにより社会のモラルが高まる。その環境の創出にパブリックアートの意義があり価値があるのだという思いで、これまで470点以上の作品を全国の駅や空港、学校などに設置してきた。
 日本のパブリックアートへの認識は熟しているとはいい難い。「1%フォー・アーツ」との向き合い方をみてもそう思う。公共事業費の1%に相当する予算を芸術・文化に支出するというこのシステムは、欧米をはじめ各国で導入されているが、我が国では導入への意欲は残念ながらまだ小さい。
 日本の公共事業費の1%にあたる予算が芸術、文化にあてられるなら、芸術家たちは今以上に多くのすぐれた作品を生み出せるだろう。それらが公共の空間で人々に無意識に親しまれ、社会全体の精神的な豊かさとなっていく。
 芸術・文化の面でも世界から尊敬される日本であり、日本人であるためにも、リードの言葉の意味は重要だ。「1%フォー・アーツ」の一刻も早い実現を願う。