日本経済新聞 連載『あすへの話題』

2011年2月17日

海洋資源大国

 知人に誘われてふぐ料理屋へ出かけた。その店の80歳を超えたという親方の仕事はもはや芸術の域で、出された皿に見惚(みほ)れると同時に、ふぐという魚をこれほどまでにおいしく美しく調理する技術、それを舌だけでなく目でも味わう食文化は日本の大切な財産だと改めて感じ入った。
 この素晴らしい文化には1万年以上の歴史がある。私たちの祖先はすでに縄文時代に動物の骨で釣り針を作って漁をし、その時代の貝塚からはふぐの骨も発見されている。四方をぐるりと海に囲まれた島国だから当然のことなのだろう。
 調べてみると、日本の海岸線は約3万キロメートルあり世界第6位、中国の2倍にも及ぶ。この海からの恵みが日本に一層大きな恵みをもたらしてくれる。東京工業大学で開かれた「イノベーションによる食の未来創成に向けて」と題する講演会に参加してその思いを強くした。
 登壇された前ユネスコ事務局長の松浦晃一郎さんが、世界190カ国を訪問した経験などもまじえながら話されたところによると、世界では日本食がブームで、海外の日本食レストランは欧米を中心に約3万軒もある。そこでの人気メニューは、昔のすきやき、鉄板焼きから、寿司、刺し身へ、つまり魚料理へと変わっているそうだ。
 同講演会では他の講師から、冷凍技術は日本が世界の先頭にいるとも聴いた。豊かな海の幸と最先端の冷凍技術、魚介を中心に世界的な日本食人気。お隣の大国、経済成長著しい中国でも富裕層を中心に日本の品質の高い農水産物や食文化への関心は高まる一方だ。レアメタルなど鉱物資源もそうだが、食の分野でも日本の海洋資源大国としてのポテンシャルは期待できる。