日本経済新聞 連載『あすへの話題』

2011年2月10日

愛と脳

 若い頃からの信条の一つが、「やらなければならないことは、やりたいことにしよう」だ。どうせやるなら前向きにやろうと決めたのだが、徹底するうちに嫌いな仕事がなくなっていったから成果はあった。そして、やがて「仕事が趣味」を自認するようにさえなったが、何年もやりたいことを続けていれば当然かもしれない。
 うまくいったことは人にもすすめたくなる。紹介したいのは、「すべての仕事をやりたいことにする習慣をもてば、仕事の質が上がるし、面白くなる。そうなれば意欲も高まる」という効率のいい仕事術。が、「嫌な仕事はどうしても嫌」という反応にあうと、「嫌な仕事は天が自分を鍛えるために与えた試練だと思えばいい」と教訓めいて本意がどうも伝わりにくい。
 もやもやとした思いを脳科学者・松本元さんが晴らしてくれた。松本さんは、脳の原理で働く脳型コンピュータ開発の先駆者。著書『愛は脳を活性化する』にある「脳に快情報としてインプットされれば、脳内活性が上がり学習効果が高まる」という記述に目がとまった。「快情報」とは脳が好きと受け取る刺激のことで、脳が快と認めれば脳に効率よく仕事をこなす回路が作られるという。
 我が意を得たり、自分の信条に脳科学からのお墨付きをちょうだいした思いだった。やりたいことは脳にとって快情報だ。やりたいことには脳はすいすい働く、やりたいことが脳を効率よく成長させるのだ。
 バレンタインデーが近づき、店先にハートの柄があふれて街には愛情が増量されたようだ。けっこうなことである。松本さんは「愛は脳を活性化し、意欲を向上させて脳を育てる」とも書き遺(のこ)している。